Symposium
Older Persons in Africa: Living Arrangements, Social Connections, and End-of-Life Practices Revealed from a Rural Research in Kenya
Date: 2nd, November 2025
Venue: Teikyo University Itabashi Campus
Organizers:
Ken Masuda (School of Tropical Medicine and Global Health, Nagasaki University)
Reiko Hayashi (National Institute of Population and Social Security Research)
Chair:
Ken Masuda (School of Tropical Medicine and Global Health, Nagasaki University)
Speakers:
Ken Masuda (School of Tropical Medicine and Global Health, Nagasaki University)
Kaori Miyachi (Office for the Promotion of Gender Equality, Safety and Security Organization, Kochi University)
Satoko Horii (Graduate School of Welfare and Medical Management, Bunkyo Gakuin University)
Reiko Hayashi (National Institute of Population and Social Security Research)

SY-1 Older Persons in Africa: Living Arrangements, Social Connections, and End-of-Life Practices Revealed from a Rural Research in Kenya
Ken Masuda (School of Tropical Medicine and Global Health, Nagasaki University)
2021年、国連は「2021-2030年 国連ヘルシー・エイジングの10年(UN Decade of Healthy Ageing)」を宣言し、「高 齢者が尊厳と平等、そして健康的な環境の中で自らの可能性を最大限に発揮できる社会の実現のためには、健康的な高 齢化に関する10年間の世界的かつ協調的な行動が急務である」と訴えた。 一方で、サブサハラ・アフリカの高齢者人口は、今世紀末までに現在の10倍に達すると予測されているにもかかわらず、 高齢期のウェルビーイングを支える政策や制度、介護や医療、福祉、年金、社会的参加に関する知見は極めて限られている。 とりわけ、地域社会に根ざしたケアの実践や、それを支える文化的・制度的基盤については、いまだ十分に明らかにさ れていない。
本シンポジウムでは、ケニア南部のクワレ県における高齢者調査を基軸に、関連する事象も交えながら、アフリカの 文脈において「ヘルシー&アクティブ・エイジング」をいかに理解し、いかに評価することが可能なのか、という根本的 な問いにアプローチする。
クワレにおける研究は、7年にわたる準備と予備的調査のフェーズ、2022年からのサーベイランスと個別訪問のフェー ズからなる。サーベイランスは2022年の10月から12月にかけて実施され、高齢者とのその予備軍(40歳以上)の計 4300人あまりへの訪問を実現した。本発表ではサーベイランスの結果の一部として年齢構成、社会経済的背景、そして 特に「住まい方」と「つながり方」に関する結果を提示する。
本シンポジウムでは高齢女性への個別訪問を繰り返してきた宮地による発表、認知症にローカルな認識を明らかにし た堀井の発表、そしてサーベイランスの結果と関連して林によるヘルシー&アクティブエイジング指標に関する発表を 行い、一地域における多角的なアプローチによる「住まい方、つながり方、終い方」の理解がグローバルヘルスの文脈においてどのような意義を持つか議論したい。
SY-2 Listening to the Voices of Older People in Rural Kenya: Insights from Their Lives and Care Realities
Kaori Miyachi (Office for the Promotion of Gender Equality, Safety and Security Organization, Kochi University)
サブサハラ・アフリカにおける高齢者(65歳以上)の人口は、2019年の約3,200万人から2050年には約1億1,000万 人へ増加すると予測されている。2002年に国連が採択した「マドリッド国際行動計画(Madrid International Plan of Action on Ageing, MIPAA)」は、世界的な高齢化に対応する包括的枠組みを提示し、各国に高齢者政策の整備を促し てきた。ケニアでもこの流れを受け、2010年憲法で高齢者の権利を保障し、2009年の「国家高齢者政策」、2014年版、 2018年改訂を通じて施策を発展させた。2006年からは条件付き現金給付(OPCT)を試行し、2018年には70歳以上を 対象とする無条件給付制度「Inua Jamii」を開始するなど、社会保障の基盤整備が進められた。さらに2025年には「Older Persons Bill 2024」に基づく新政策が施行され、地方自治体が高齢者ケアの主導的役割を担うことが予定されている。
本発表では、この政策的背景を踏まえ、ケニア南東部クワレ県で行った現地調査の報告を行う。2022年の保健人口動 態サーベイランス(HDSS)に基づく「高齢者調査(Wazee Surveillance)」では4,357人を対象に、女性高齢者や寡婦の 多さ、単身世帯の増加が確認された。さらに2016~2024年の発表者の質的調査からは、糖尿病など慢性疾患や認知症 への対応が不十分で、介護負担が娘や嫁に集中している実態が明らかになった。政策や制度が整備されても、家族によ るケアが中心であり、高齢者や介護を担う家族の抱える課題が浮き彫りになった。今後は2025年新政策の実施を契機 に、地域に根ざした医療・介護サービスの拡充や介護教育、地域ネットワークを活かした支援が求められる。本発表では、 MIPAA以降の国際的潮流とケニアの政策的取り組みを整理し、クワレでの調査事例を通じて農村部における高齢者の 尊厳ある生活の可能性を考察する。
SY-3 Reframing Aging in Local Contexts- Towards Sustainable Care Systems Development
Satoko Horii (Graduate School of Welfare and Medical Management, Bunkyo Gakuin University)
本報告は、「老い」に対する地域固有の捉え方に着目し、持続可能なケアシステム構築に向けた視座を提示するもので ある。グローバルな文脈では、一般的に「老い」を身体的・精神的な衰退ととらえ、それに対応するかたちで保健医療・ 介護等、社会保障制度が整備される。一方、アフリカの一部地域では、「老い」は衰退ではなく、むしろコミュニティの 維持に貢献する存在として尊重され、社会的地位の確立の契機とされることもある。ただし、こうした価値観もグロー バル化や高齢化の進展により変容しつつある。
筆者らは、ケニア・クワレ地域でのフィールド調査を通じ、地域社会が高齢者の身体的・精神的変化をどのように認 識しているかを検討した。その結果、高齢者に対するコミュニティの理解や対応に関して重要な知見が得られた。とり わけ、認知症に関して、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に相当する症状・行動(徘徊・ 暴力等)を示す高齢者の存在が地域内で把握されており、その状態はKu-changanyikiwaと表現され、加齢に伴う一般 的な変化とは区別し対応がなされていた。
こうした事例は、画一的なケアモデルとは異なる、地域に根ざした持続可能なケアシステムの基盤となり得るローカ ルな知識と実践の存在を示唆している。ケアシステムの構築や政策提言にあたって、こうした地域文化に根ざした知識 と実践を重視することは不可欠である。一方で、短期間の調査結果を表層的に解釈することは、外部者が新たな健康課 題に安易にラベルを貼り、地域社会における認知症へのステレオタイプを助長する危険を伴う。今後、アフリカ各地で 高齢化が進み、新たな健康課題が顕在化するなかで、こうしたリスクを回避しながら持続可能なシステムを構築するた めには、フィールドに精通した人類学的知見との連携がますます重要になると考えられる。
SY-4 The situation of older persons in Kwale County, Kenya: A comparison with Asian countries
Reiko Hayashi (National Institute of Population and Social Security Research)
ケニア・クワレ県において2022年に実施した高齢者調査を用いて、ASEAN諸国(以下「アジア」とする)との比較を試 みる。ケニアの南端、タンザニアとインド洋に接するクワレ県は2019年センサスにおいて人口は86万人、ケニア全人 口4,721万人の1.8%を占める。その時点で60歳以上高齢者の割合はケニア全土、クワレ県共に5.8%であった。この割 合は、平均12.0%であるアジアと比べ低い。クワレ県調査によれば60歳以上高齢者の一人暮らしの割合は4.8%であり、 タイやベトナムの10%強と比べれば低い。小学校以上の学歴があるのは37.8%で、アジアと比べ低い。働いているのは 19.4%で、アジアの中ではマレーシア(13.8%)よりも高く、フィリピン(46.0%)よりも低い。クワレ県の障害率は、ワ シントングループ定義で33.9%、GALI(EU定義障害率)で34.0%であり、日本、ミャンマーよりも高く、ベトナム、フィ リピンより低い。主観的に健康と感じている人は21.2%で、日本やベトナム・フィリピンと同程度である。一週間に1 回以上運動をしている人は62.9%で、アジアの国と特に異なるわけではない。社会的なつながりをみると、クワレ県で 地域・宗教活動に参加している人は58.4%で、この値はアジアの多くの国よりも高い。家族や友達とつながりがないの は7.3%でアジアと比べても低い方である。また、70歳以上でイヌアジャミイという社会的年金(無拠出の低額な現金手 当)を受給している割合は41%で、同様の社会的年金があるタイの受給率91%よりも低いが、通常の年金制度しかない インドネシアやベトナムの受給率よりも高い。このようにクワレ県はアジアと比べ、高齢者の割合や教育水準が低い、 という点は明瞭な差があるものの、就業状況や健康度、社会とのつながりはアジアと特に異なるわけではない。